国税専門官は、簡単に言うと「税金のプロ」です。
全国の国税局や税務署で働く国税専門官は、税の専門家として法律、経済、会計等の高度な専門知識を駆使し、社会の動向を敏感に察知して活躍しています。
国税専門官は異動の範囲が狭く、研修も充実しているため、やる気さえあれば様々なキャリアを積むことができます。また、勤続年数に応じて税理士試験の科目免除を受けることができます。税理士になることで国税専門官を定年退職しても働き続けることが可能になるのです。
この記事では、国税専門官の仕事内容や試験概要など、国税専門官になるために知っておくべきことを解説していきます。
1.国税専門官とは?
国税専門官は、国税庁と税務署で、国税の調査や指導をする国家公務員です。国税専門官は、その名の通り「国税」を扱います。納税者と国庫をつなぐ税の専門家として、国税専門官は、法律、経済、会計等の専門知識を駆使し、国の財政的な基盤を支える重要な役割を果たしている国家公務員です。
国税専門官の所管官庁は財務省の外局である国税庁です。
国税専門官は、下記の3種類に分かれています。
①国税調査官 国税調査官は、納税者から提出された確定申告書等について、適正な申告が行われたかどうかの調査や検査を行うとともに、申告に関する指導などを行います。" ②国税徴収官 "国税徴収官は、定められた納期限までに納付されない税金の督促や滞納処分を行って、税金を徴収するとともに、 納税に関する指導などを行います。" ③国税査察官 "国税調査官は、裁判官から許可状を得て、大口・悪質な納税者に対して捜索や差押などの強制調査を行い、刑事 罰を求めるため検察官に告発します。" ※出典:国税庁(https://www.nta.go.jp/index.htm)
2.国税専門官の業務内容は?
次に、国税調査官、国税徴収官、国税査察官の詳細な業務内容を見ていきましょう。
①国税調査官
国税調査官は、個人・企業の納税者を訪問し、税金の申告が適正に行われているか調査します。納税者の申告が適切でないと判断された場合には、納税者に確定申告などを行うよう指導し、適正な税額を計算して納付してもらいます。毎年2月中旬から3月中旬の確定申告時期は、全国で約2,000万人が税務署に集まり、申告や税務相談が行われる大変忙しい時期です。
②国税徴収官
国税徴収官は、滞納された税金を徴収します。定められた期限までに納付されなかった税金については、督促や財産差し押さえなどの滞納処分をするのも業務です。
国税徴収官には、徴収法第142条の「徴収職員は、滞納処分のため必要があるときは、滞納者の物又は住居その他の場所につき捜索することができる。」に基づき、「徴収職員証票」を示せば、滞納者の自宅などの捜索・差し押さえを行う権限が与えられています。
税金を正しく納税させることが国税徴収官のミッションであり、滞納者からきちんと税金を徴収できたときには、大きなやりがいを感じることができます。国税徴収官の使命は、税金を正しく納付させることです。
③国税査察官
「マルサ」とも呼ばれる国税査察官は、脱税の調査や刑事告訴を行う仕事です。脱税額が多い納税者や悪質な納税者に対しては、裁判所の許可を得て家宅捜索や差押えなどの強制捜査をします。国税査察官が不正を発見した場合、刑事罰を求めるために検察官に告発します。
3.国税専門官に向いている人は?
国税専門官は納税のプロフェッショナルのため、豊富で正確な法律知識により個人や企業を最大限にサポートしなければなりません。また、人と顔を合わせて仕事をするため、高いコミュニケーション能力が求められます。また、帳簿や申告に矛盾がある場合は、事実確認に必要な資料を早急に入手する俊敏さや、事実確認の結果、最初の仮定が間違っていることが判明する場合があるため、一つの推論に固執せず、事実から結論を導き出すための論理性と柔軟性も必要です。
4.国税専門官になるには?
国税専門官になるには、他の国家公務員と同様「国税専門官採用試験」という試験に合格し、採用される必要があります。
国税専門官採用試験は、年に1度、6月に1次試験の筆記と、7月に2次試験の面接と身体検査の2段階試験で実施されています。1次試験に合格しないと2次試験に進むことができません。試験は、受験する年の4月1日時点で21歳以上30歳未満という年齢制限が設けられています。
試験には憲法、民法、経済学、会計学、政治学、社会学などの高度な専門知識が求められるため、大学の法学部、経済学部、政治学部などを専攻すると有利です。
最終合格者は採用候補者名簿に掲載されます。このリストから各年度の職員数を考慮し、全国の国税局と沖縄国税事務所に採用先が決められます。勤務地については、申請者の希望が考慮されますが、特定の国税局に希望者が集中している場合は、希望通りの勤務地にならない場合があります。
採用が決まったら、採用者全員が埼玉県和光市にある税務大学校和光校舎で約3か月間の専門官基礎研修を受けます。専門官基礎研修修了後、採用された国税局管轄の税務署に配属され、1年間実務経験をします。そして再び税務大学校地方研修所にて約1ヶ月の専攻税法研修を受講、税務署で約2年間の実務経験後、税務大学校和光校舎で約7カ月間の専科を受講し、また税務署に戻るということを繰り返すことで、実務を熟知した国税専門官になっていくのです。
2023年度の試験から、国税専門官採用試験は「国税専門A」と「国税専門B」の二つの区分となります。国税専門A区分は、現行の試験とほぼ同じ内容で実施します(変更点は、専門試験(多肢選択式)の情報数学・情報工学の問題を出題しなくなる点のみです。)。国税専門B区分は、理工・デジタル系の方向けの区分となっており、理数系の基礎知識などを問うものとなっています。 ※出典:国税庁(https://www.nta.go.jp/index.htm)
5.国税専門官採用試験の流れ
国税専門官採用試験は、他の公務員試験とほぼ同じ流れですが、二次試験以降の流れに注意しなければなりません。試験の流れをある程度把握していないと、併願申請の状況などに影響を与える可能性があります。
大まかな国税専門官採用試験の流れを以下に紹介します。
①2月上旬:受験案内
2月の上旬に、試験会場・日程、申込方法、受験資格などの試験の概要が公開されます。
②3月中旬~4月上旬:受験申込
国税専門官採用試験の申し込み方法は、インターネットからです。人事院の国家公務員採用試験ホームページhttps://www.jinji.go.jp/saiyo/siken/sennmonnsyoku_daisotsu/kokuzei/kokuzei_daisotu.htmlから以下の流れで申し込んでください。
事前登録 → 申し込み → 受験票の作成(ダウンロード・印刷)
③6月上旬:第1次試験(筆記試験)
第1次試験では、以下の筆記試験が実施されます。
・基礎能力試験
・専門試験(多肢選択式)
・専門試験(記述式)
④7月上旬~中旬:人物試験・身体検査
人物試験は、受験生の人柄や対人的能力などをチェックする個別面接です。また、身体検査はレントゲン撮影や尿検査などが実施され、国税専門官の業務に支障がないか確認されます。
⑤8月中旬:最終合格発表
第2次試験に合格すると、試験に合格したことになります。ただし、最終合格とは、採用者名簿に名前が載るだけであり、就職が保証されているわけではありません。
⑥8月下旬~:採用面接
国税専門官採用試験に合格後、数日から1週間程度で希望の国税局で「採用面接」と呼ばれる試験が行われます。採用面接の日程は、各国税局によって異なります。この試験に合格すれば最終的に内定が得られるのです。
⑦10月初旬以降:採用内定
採用面接で内定が得られた場合、翌年の4月1日から採用されます。
6.国税専門官採用試験の内容
国税専門官採用試験は第1次試験と第2次試験があると上にも記載しましたが、実際どのような試験なのかもう少し詳しく見ていきましょう。
①第1次試験の基礎能力試験(多肢選択式)
基礎能力試験は、国税専門A区分とB 区分ともに、出題数は40題、解答時間は140分です。
名前の通り、基礎学力、そして一般教養を確認する試験です。16科目もあるため、重点を置く科目と捨てる科目を見極め、効率よく勉強する必要があります。
②第1次試験の専門試験(多肢選択式)
(1)国税専門A区分
国税専門A区分の出題数は70題、解答時間は140分です。「民法・商法」と「会計学」の2科目・16題は必須ですが、残りの9科目・54題は、その中から4科目24題を任意に選ぶことができますので、解答数は40題です。
(2)国税専門B区分(2023年度に創設される理工・デジタル系の新試験区分)
国税専門B 区分の出題数は58題、解答時間は140分です。「民法・商法」「会計学」「基礎数学」の3科目・16題は必須ですが、残りの6科目・42題は、その中から24題を任意に選ぶことができますので、解答数は40題です。
③第1次試験の専門試験(記述式)
(1)国税専門A区分
「憲法」「民法」「経済学」「会計学」「社会学」の5科目のうち1科目を任意に選ぶことができます。
(2)国税専門B区分
科学技術に関連する領域から出題されます。
④第2次試験の人物試験
国税専門官の第2次試験で行われる「人物試験」は、面接試験です。面接時間は訳15分で、「面接カード」と呼ばれるエントリーシートに沿って3人の面接官から質問をされます。
人物試験は、A~Eの5段階で評価されます。DとEの場合即落とされてしまうという少し厳しい採点方法になっています。
⑤第2次試験の身体検査
人物試験と同日に「医師の診察」「尿検査」「血圧検査」「X線検査」が行われます。特に難しい手順などはありません。
7.国税専門官試験の試験対策
国税専門官試験に合格するために、どのように試験対策をしていけばよいのか説明します。
①第1次試験の基礎能力試験(多肢選択式)
最も一般的な学習方法は、数的処理や文章理解などの知能分野と呼ばれる問題数の多い科目に重点を置いて学習することです。社会科学にカテゴライズされる政治、法学、経済は専門科目とかなり重複しているので、あまり時間を割く必要はありません。しかし、英語や数的処理など、苦手分野がある方は、人文科学、自然科学など各1題ずつしか出題されない科目でも、頻繁に出題される分野を勉強することで得点確率を上げることができます。
②第1次試験の専門試験(多肢選択式)
他の公務員試験では求められない会計学や商法が必修科目であることが、国税専門官採用試験の特徴です。会計はさほど難しいものではないので、国税専門官を第一志望とする場合、基礎をしっかりと勉強しておくことをお勧めします。しかし、商法は2問のみで構成されているため、ほとんどの人は、商法を捨て科目にしています。
専門試験(多肢選択式)は基礎能力試験の1.5倍の点数が配点されるので、専門科目で高得点を取ることができれば総合点も上がります。
③第1次試験の専門試験(記述式)
経済学の選択を好む人が多いです。しかし、憲法の基本的なポイントも押さえておくことをお勧めします。そこまで書けなくても合格する人が多いようです。
④第2次試験の人物試験
国税専門官試験で一番重要とされているのが、この面接です。人物試験における成績がよかった人から、最終合格後の採用面談に呼ばれるという話しです。採用面談で内定をもらうためにも人物試験には力を入れて準備しましょう。
面接官は、上手に説明したり、人の話を良く効いて理解したりできるコミュニケーション能力や、志望動機、志望度の高さなどを特によく確認します。
国税専門官の仕事内容を十分理解し、国税専門官としての使命感を持つことができ、自分の意見を自分の言葉で表現でき、国民に貢献するために何をする必要があるかを知っていることが重要です。
8.国税専門官を目指すための大学選び
国税専門官になるために絶対有利とされる学部・学科はありません。しかし、試験では憲法、民法、経済学、会計学、社会学などの高度な専門知識が問われるので、法学系、経済学系、政治学系の学部・学科で学ぶ方が国税専門官試験に向けた勉強がしやすでしょう。また、公務員試験対策を実施している大学に絞るのもお勧めです。
日本経済大学・福岡校・経済学部・経済学科・公務員コース 日本経済大学福岡校の経済学部・経済学科には、公務員コースがあります。憲法・民法・行政法・刑法・商法などを中心に、基礎から応用までしっかり学習し、様々な行政問題に対応できる公務員をめざすコースです。公務員合格に向けた多彩な支援も受けることができます。さらに経済学・経営学を学ぶことで豊かな法律知識やリーガルマインドに加え、企業経営や経済にも精通した人材へと成長できます。 1年次から3年次までの間に、下記を対象にした公務員受験対策講座が設けられています。 ・1年次生対象 公務員試験(基礎数学を含む数的処理コース) ・2年次生対象 公務員試験(言語能力向上を含む教養基礎力習得コース) ・3年次生対象 地方上級行政職(都道府県・政令指定都市職員) 地方公務員一般職(市町村職員) 公安職(警察官・消防官・海上保安官・刑務官等) 国家公務員一般職(省庁職員) 国税専門官等専門職対応コース 是非参考にしてみてください。
おわりに
近年、経済の発展に伴い、商取引が複雑化、広域化し、脱税事例などが増加しています。そのような状況に対応するためには、より高度な専門知識とスキルを備えた人材が必要とされています。
また、今後税金が高くなると、納税ができない人や、脱税しようとする人が出てくる可能性が高まります。そのため、さまざまな税務相談や不正の是正を行う国税専門官の役割も大きくなります。
国税専門官の需要と機会は、今後も増加し続けるでしょう。国税専門官になるためには、早めに情報を収集し、対策を練ることをお勧めします。