今日、多くの中小企業が事業継承問題に頭を悩ませています。
特に後継者がいないことが大きな課題になっています。
そこで、最近いくつかの大学・大学院で後継者を育成する学科、コース、講義が登場してきています。
この記事では事業継承の概要から、後継者を育成する大学がどのような教育をするのかなどについて解説します。
1.事業承継とは?
まずは、事業継承の概要から見ていきましょう。
事業承継とは、会社の経営を現在の経営者から別の後継者へと引き継ぐことを指します。会社の経営権をはじめ、業務に使用している設備、独自の技術やノウハウ、顧客情報まであらゆる資産が対象です。
近年日本では、数多くの中小企業経営者の高齢化が進んでいます。そのため、早めに事業承継を進めたいと考えている経営者がたくさん存在します。しかし残念ながら日本は、高齢化だけでなく少子化も進んでいるので、以前に比べて後継者の確保が難しくなっています。
事業承継ができなければ、苦労して成長した組織が消滅する恐れさえあります。また、事業承継がなんとかできたとしても、業績が悪化したり、トラブルが発生したりするケースも少なくありません。このような事態を避けるためには、事業承継に関する課題を認識し、問題意識を持って取り組む必要があります。
そのような業績やトラブルの課題を解決する1つに、後ほど説明する後継者が大学で学ぶという手段があります。
2.中小企業の現状は?
中小企業の数は年々減少しています。管理職の年齢にもばらつきがあります。中小企業庁が2016年に公表した「事業承継に関する現状と課題について」によると、50~70代の経営者が多いとなっています。しかし、70代の中小企業経営者が占める割合は年々増えています。
今後次々と団塊世代の経営者が引退するでしょう。事業承継の準備ができているのなら問題ありませんが、後継者を見つけないところが増えてくると、ますます多くの企業が廃業に追いやられてしまう可能性があります。
出典:中小企業庁ウェブサイトhttps://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf
3.事業承継に関する課題とは?
事業承継に関する課題としては、後継者が決まっていなかったり、後継者が育成されていなかったり、相続トラブルが発生する恐れもあります。以下はそれら課題の詳細です。
①後継者が決まっていない
事業を引き継ぎたくても、後継者にふさわしい人材がいない可能性があります。中小企業の場合、親族が事業を継ぐケースが多いです。しかし、後継者候補にその意思がなければ、事業の承継はできません。また、また、その人にひき綴意思があったとしても、経営資質がなければ承継後に経営が悪化するかもしれません。
社内や親族に事業を継いでくれる人がいない場合は、後継者を募集して社外から連れてくるのも1つの方法です。ただし、その場合でも資質や適性については慎重に判断する必要があり、時間がかかりすぎることもあります。
②後継者が育成されていない
後継者育成がうまくいっていない企業は多いです。経営者がまだ元気なケースでは、経営者がまだ元気ですと、追い込まれていないため、後継者の成長が遅れます。経営者が高齢の場合、いつどうなるか分からないので、早くから育成を進めることが必須です。
③事業承継の相続トラブル
親族に事業を承継する場合、相続問題に注意が必要です。後継者候補となる親族が複数いる場合、経営陣が後継者として選ばなかった親族が反感を抱く可能性があります。
また、親族に経営資質がないと判断し、外部から後継者を選任する場合も、親族との問題が起こるかもしれません。
早めに後継者を決めて話を進めておくことが、トラブルを防ぐ最善の方法です。後継者を早めに決めて知らせることや、親族とよく話し合うことでトラブルを回避しましょう。
後継者と従業員の対立など、様々なトラブルが予測されます。しっかりとした対策を立てることが必要です。
4.事業承継を成功させるには?
事業承継に失敗すると、事業承継直後に会社が崩壊する可能性があります。以下は、事業承継を成功させるためのポイントです。
①事業承継を早めに考える
事業承継には数年かかると言われており、状況によってはもっと長くかかることもあります。早めに準備を始めることが非常に重要です。
②後継者を育成する準備をする
上述したように、事業承継には時間がかかるため、綿密な準備と計画が必要です。会社をどう発展させるか、経営方針をどうするか、株式をどう引き継ぐかなど、しっかりとした育成計画を立ててから進めましょう。
③自社株など経営に関する問題点を解決しておく
経営上の問題は、事業承継後のトラブルにつながる可能性があります。従業員を従来通り雇用できなくなる可能性もあるため、あらかじめ問題点を解決しておくことが大切です。従業員にも迷惑がかかるかもしれないので、後継者に継承する前に問題を解決することが重要です。
また、自社株の税金対策をしてください。一般的な方法は、会社の株式を有利な株主に譲渡することです。信頼できる株主でない場合、経営権を剥奪される可能性がありますので、注意が必要です。
④事業承継に関する税制や継承補助金を活用する
後継者が過大な税負担を受けないように対策を講じましょう。税負担を軽減する制度を利用することをお勧めします。
利用できる制度の一つに、「事業承継補助金」があります。事業承継やM&Aを契機に新たな取り組みを進めようとする企業を支援する制度です。事業承継に伴う費用の支援が受けられ、経済的負担の軽減につながります。
5.大学で事業継承を学ぶ
事業継承者不在問題を解決するために、いくつかの大学、大学院、そして大学の社会人コースなどで、後継者育成を行っています。
後継者を育成するためのコースや授業などがある大学等を見てみましょう・
①名古屋商科大学・経営学部「事業承継コース」
名古屋商科大学は、国際ビジネスで活躍できるグローバルリーダーの育成を目的とした大学です。
経営学部には、2013年度に設置された、後継者育成に特化した4年間一貫特別カリキュラム「事業承継コース」があり、組織を牽引することができる人材を育成しています。
また、修士課程では、社会人が仕事と勉強を両立できるよう、週末に講義を行い、将来のリーダーの育成を目指しています。
②事業創造大学院大学
新潟にある、2006年に開学した事業創造大学院大学は、社会人が2年間働きながら「起業家」「後継経営者(事業承継者)」「経営幹部」を目指す専門職大学院です。経営管理修士(専門職)MBAの学位が取得できます。
会社の経営者や起業したい人、すでに事業継承している人など、次世代の経営者と共に学ぶことができる大学です。
③日本経済大学・経営学部・経営学科 「アトツギ・起業家コース」
幼稚園から大学院まで全国に30以上の学校を展開する「都築学園グループ」が運営する日本経済大学は、1968年に開校した福岡県に本部を置き、神戸三宮、東京渋谷と3つのキャンパスがある大学です。経済学と経営学を中心に、2学部6学科18の専門コースがあります。
アトツギ・起業家コースでは、企業経営に必要な組織・経営・会計の知識に加え、事業承継に伴う「伝統と革新を両立させる経営」に必要な知識と考え方を学びます。また、起業の仕方も学べます。事業創造・事業展開のリーダーを育成する独自の専門科目を展開しています。
自ら新しい事業を創造し起業しようとする人や、将来、事業の経営を引継ぎ、更に事業を発展させようと考えている人のためのコースです。ただし企業に就職する場合でも、本コースで修得するリーダーシップ、チャレンジ精神、プレゼンテ-ション能力、経営センス等は実践的に役に立ちます。
アトツギ・起業家コースの履修により、上級ビジネス実務士の資格取得のためのカリキュラムを組むことも可能です(3年修了時で取得可能)。
●特色ある科目
(1)アントレプレナーシップ論
スタートアップ企業あるいは既存企業の中で事業を立ち上げ、成長させ、収穫させるまでのプロセスと関連する理論を学びます。また、そのプロセスにおいて、課題となることを理解し、それへの対処方法を学びます。
(2)ベンチャービジネス概論
スタートアップ企業と既存企業による新規事業について、経営上の特徴、ライフサイクルにおける課題と対処方法、起業家の役割、チームのマネジメント、資金調達の概要、良いビジネスのアイデアの特徴、ビジネスプランの役割と構成、ベンチャービジネスを囲むエコシステム等について学習します。
(3)ビジネスプラン講座
ビジネスを始めるための計画(ビジネスプラン)を実際につくり、発表することを通してビジネスプランの作り方や、ビジネスプランの評価方法を学びます。
(4)企業論
現代の経済社会の発展をリードしている企業について、その特性と企業行動、組織の永続的発展に向けてのグローバル化、社会的貢献、働き方の多様化について考えます。さらには、現代社会の多様な問題を解決する社会的課題解決企業の事業展開やソーシャルビジネスを具体的な事例を取りあげながら講義します。
(5)リーダーシップ論
将来、組織の経営者や管理監督者として多くの従業員を導いて事業運営を行うリーダーシップ能力を習得することを目的とします。
特に、研究蓄積があるリーダーシップ研究の理論的基礎を重視しつつ、机上の空論にならないよう、常に実践的な事例(著名企業や著名経営者など)に基づいて解説し、受講生の理解を深めることを目指します。
リーダーシップに関わる概念を用いて、受講生が実際の事業経営の擬似体験ができるような工夫を随所に取り入れて、毎回の講義を設計して実践します。
●コースのポイント
「ファミリービジネスの経営」の講義では、家族経営の企業において、事業承継者が伝統と革新を両立しながら家業を永続する経営者精神を育み、同族経営に必要な知識と考え方を学ぶことができます。
おわりに
日本では2025年に大廃業時代に到来すると言われており、127万社の中小企業が倒産し、650万人の雇用が失われ、GDPは22兆円もなくなると試算されています。 廃業の大きな理由の一つに後継者不足があります。安心して仕事を任せられる人材が育っていないのです。
それに対応して、後継者を育成する大学が出てきました。
この記事では、事業継承とその課題、事業継承を成功させる鍵、そして事業継承のコース、学科がある大学・大学院の紹介をさせていただきました。是非、参考にしてください!