経営についてのスキルを磨きたいと考えた時に、よく比較されるものとして「中小企業診断士」と「MBA」が挙げられます。どちらも経営学についての全般的な知識を体系的に学べ、同じような科目内容もあるなど共通点もありますが、中小企業診断士は「資格」であるのに対し、MBAは「学位」をあらわすものである大きな違いがあります。
今回はそんな「中小企業診断士」と「MBA」の違いを詳しく解説していきます。中小企業診断士とMBA、どちらを取得すればよいか悩んでいる方はぜひ参考にしてください。
中小企業診断士とMBAについて
まずは中小企業診断士とMBAについて理解しておきましょう。
■中小企業診断士とは■
中小企業診断士は、中小企業を対象として経営に関する診断や助言を提供する専門家のことです。また、経営コンサルタントの能力を認定する唯一の国家資格となります。中小企業診断士の主な仕事内容は、中小企業の経営コンサルティング、経営改善計画書や経営診断書の作成、公的機関からの「専門家派遣」や「窓口相談」などの委託業務、研修やセミナーでの情報発信、出版物やウェブ記事の執筆活動などです。中小企業診断士を取得して履歴書に記載する場合は、「資格」に記載します。
■MBAとは■
MBAは「Master of Business Administration」の略で、日本では「経営学修士」または「経営管理修士」とも呼ばれる学位です。経営学の大学院(ビジネススクール)修士課程を修了した際に授与されます。MBAは主に大企業を対象としており、企業経営の実務家を育成することを目的としています。MBAの学位取得者は自らが経営者として主体的に行動し、意思決定をし、将来の方向性を考え、それを実現するための能力を磨くことが求められます。MBAを取得して履歴書に記載する場合は、「学歴」に記載します。
中小企業診断士やMBAについて共通する点として、医師や弁護士などのように、これらの資格を持っていないと携わることができない「独占業務」ではないということが挙げられます。つまり、これらの学位や資格を持っているからこそできる特定の業務は存在しません。しかしながら、両者ともキャリアの中で独立することも可能ですので、専門的なスキルを高め、自律的に働きたい方にとっては取得しておくことが有益であると言えます。
取得方法の違い
中小企業診断士は国家試験と実務補習・実務従事によって資格を取得することができ、MBAは大学院(ビジネススクール)の入試試験を受け、大学院修士課程を修了することによって学位が授与されます。
■中小企業診断士の取得方法■
中小企業診断士は国家資格であるため、国家試験に合格する必要があります。まず、一般社団法人中小企業診断協会が実施しているマークシートの選択式で行われる第1次試験の合格を目指します。その後、筆記試験と口述試験で行われる第2次試験に合格し、その後3年以内に15日以上の実務補習を受講するか、または15日以上の実務従事を行うことで中小企業診断士として登録することができます。もしくは、第1次試験合格後、中小企業基盤整備機構または登録養成機関が実施する養成課程を修了すれば中小企業診断士として登録することができます。
■MBAの取得方法■
MBAを取得するには、国内または海外の大学院(ビジネススクール)の入学試験に合格する必要があります。大学院には、仕事を休職または会社を退職してフルタイムで通学する方法や、仕事を続けながら平日の夜間や週末を利用してパートタイムで通学する方法があります。さらに、最近ではオンラインで授業を受けることができる大学院も増えていますので、自分のライフスタイルに合わせて大学院を選び、受講することができます。
MBAを受験するためには実務経験が求められる場合もありますが、実務経験がなくても受験可能な大学を選ぶことで、実務経験がない大学生でも卒業後すぐにMBAコースがある大学院に入学することができます。
<国内でMBAコースがある大学院>
ー 国公立 ー
京都大学、大阪大学、神戸大学、兵庫県立大学、東京都立大学、筑波大学、横浜国立大学、一橋大学、東京工業大学、九州大学、北海道大学、小樽商科大学など
ー 私立 ー
早稲田大学、慶應義塾大学、青山学院大学、明治大学、立教大学、中央大学、東洋大学、多摩大学、法政大学、名古屋商科大学、同志社大学、立命館大学、関西学院大学、グロービス経営大学院など
<海外MBAが日本で実施している大学院>
ボンド大学、マサチューセッツ州立大学、英国国立ウェールズ大学など
※ボンド大学、マサチューセッツ州立大学はオンラインによるMBAを実施しているので、英語の授業を受けることができます。英国国立ウェールズ大学は日本教授による日本語の授業となります。
■中小企業診断士とMBAを同時に取得する方法■
中小企業診断士の1次試験に合格している場合、中小企業診断士養成課程を併設しているMBA実施大学院に進学すれば、中小企業診断士の2次試験を受けることなく、中小企業診断士の資格とMBAを同時に取得することができます。双方の取得が可能であることは非常に魅力的ですが、費用と所要時間はかなりかかるため、慎重に選択するようにしましょう。
学習内容の違い
中小企業診断士とMBAは科目に共通点があるものの、学び方に大きな違いがあります。簡単に言えば、中小企業診断士は基本的に個人で学習するスタイルであり、一方MBAはグループで討論しながらクラスの生徒と一緒に学習するスタイルです。
■中小企業診断士■
中小企業診断士の1次試験科目は、「企業経営理論」「財務・会計」「運営管理(オペレーション・マネジメント)」、「経営情報システム」、「経済学・経済政策」、「経営法務」、「中小企業経営・中小企業政策」の7科目です。この中で、「中小企業経営・中小企業政策」は中小企業診断士を目指す上で重要な特有の科目となっています。
第2次試験では、「組織・人事の事例」「マーケティング・流通の事例」「生産・技術の事例」「財務・会計の事例」からの領域で、中小企業の診断および助言に関する実務の事例と助言能力について、筆記試験と口述試験が行われます。学習スタイルは、テキストの暗記や過去問の解答など、個人での学習が主な形式です。
■MBA■
MBAの学習内容は、学ぶ大学院(ビジネススクール)によって多少異なりますが、経営戦略、マーケティング、組織論、組織行動学、人的資源管理、アカウンティング、ファイナンス、オペレーションマネジメント、生産管理、情報マネジメント、ビジネス法、統計学、経済学など、企業経営をしていく上で必要な経営学全般を学びます。
また、MBAでは実際に起きた事例を分析し、検討して最適な解決策を考える「ケーススタディ」で学ぶことが多く、これにより、グループ討論を通じて同じクラスの学生たちと共に学び、組織をまとめるリーダーとして必要な能力も養うことができます。
勉強時間の違い
■中小企業診断士■
中小企業診断士の資格取得には国家試験に合格する必要があり、その時間は個人によって異なりますが、約1,000〜1,200時間を目安に考えると良いでしょう。資格取得にかかる具体的な時間は明確ではありませんが、仕事しながら空き時間を使って自分のペースで学習することができます。
■MBA■
一方、MBAはビジネススクールの通学期間によって異なりますが、一般的には約1~2年程度になります。約1~2年とだいたいの勉強時間は予測することはできますが、通学期間中は集中的な学習が求められるため、フルタイムで通学する場合は仕事との両立は厳しいです。ただし、平日の夜間や週末を利用したパートタイムでの通学や、オンラインでの受講も可能なので、自分のライフスタイルに合わせた学び方を選ぶことができます。
取得するのにかかる費用の違い
■中小企業診断士■
中小企業診断士の取得には、独学で入門書や模擬試験を合わせると約6万円程度、通信講座や受験校に通う場合は約10〜30万円程度かかります。受験手数料は1次試験で14,500円、2次試験で17,800円(令和4年の受験手数料改定後)となっています。また、取得後は5年に1回更新登録が必要で、更新研修を受ける場合は1回6,300円の研修を5回受けるため、31,500円の費用がかかります。登録は任意ですが、登録しない場合は中小企業診断士を名乗ることはできません。
■MBA■
MBAの取得には、国内のMBAでは約100〜500万円程度、海外のMBAでは1,000万円以上、通信制のビジネススクールでも約250万円程度の費用がかかり、かなり高額な出費になります。つまり、MBA取得は金銭的な負担や時間的な余裕が必要であり、明確な目標を持っている場合に適しています。そうでない場合は中小企業判断士を目指して予算に合わせた勉強法を選ぶことも検討したほうがよいでしょう。
取得後のそれぞれのキャリアについて
中小企業診断士は公的な機関への就職、中小企業判断士の資格を肩書に経営コンサルタントとして独立などが可能で、MBAは外資系企業や海外企業へ就職や転職、経営者や起業を目指すことができます。
■中小企業診断士■
中小企業診断士の資格を取得した後は、中小企業向けのコンサルタントとして独立したり、現在勤務している会社での業務において中小企業診断士で学んだ知識を活かしてキャリアアップを目指したり、経営コンサルタント会社に転職したりすることができます。
また、先ほど中小企業診断士の資格に独占業務はないとお伝えしましたが、中小企業診断士の資格を条件として求める募集も多く存在します。例えば、中小企業基盤整備機構、信用保証協会、商工会議所、都道府県などの中小企業に対する「専門家派遣」や「窓口相談(経営相談)」、またはこれらの中小企業支援機関でのプロジェクトマネジャーなど、交易期間での仕事にも就くことができます。
■MBA■
MBAを取得した後は、経営者や起業家を目指すことや、外資系企業や海外企業への就職や転職、企業の経営幹部や管理職へのキャリアアップを図ることができます。さらに、ベンチャーキャピタル、投資銀行、コンサルティングファームなどの企業で活躍することも可能です。MBAの取得は、幅広いキャリアパスを開拓するための有力な資格となります。
中小企業診断士とMBA、どちらを取得すればよい?
どちらもビジネスや経営に関する全般的な知識を身に着けることができますが、自分にはどちらを取るべきか悩む方は以下を参考にしてみてください。
中小企業判断士が適している人
●中小企業の経営診断や助言を外部からする仕事がしたい人
●自分が中心になって事業を行うのではなく、企業の支援をしたい人
●中小企業診断士の資格を必要とする公的な機関で働き、キャリアアップを目指したい人
●中小企業判断士の資格を肩書にし、経営コンサルタントとして独立したい人
MBAが適している人
●自らが経営者として意思決定を行い、戦略的な未来志向と実行力を鍛えることを目標としている人
●経営に関する体系的な学習と実践的なスキルの獲得を望む人
●資格などにこだわらず、ビジネス現場で結果を出し、ステップアップしたい人
●大企業で出世を目指したい人
●新たな事業を立ち上げたい人
●論理的思考能力やコミュニケーション能力、問題を発見する能力を鍛えたい人
●グローバルなキャリアを追求したい人
まとめ
中小企業診断士もMBAも、経営学に関する総合的な知識を体系的に学ぶ点では共通していますが、中小企業診断士は「資格」として位置づけられ、一方のMBAは「学位」を示すものとなります。この大きな違いにより、取得方法、学習スタイル、学習期間、費用なども異なります。また、取得後にそれぞれをどのように活かして働きたいかによっても、どちらの学びを選択するかが変わってきますので、慎重に考えて決断しましょう。
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